研究トピックス


研究トピックス

神戸商船大学 商船学部 助教授

若 林 伸 和

ITで船を動かそう

現在,私は商船学部航海学コースで教育研究を行っている. 商船学部は工学部系統に分類されるのが一般的だが,「商」の字からうけるイメージのためであろうか,商船学というと商学や経済・経営関連の文系の学問と思っている人も多いらしい. もちろん流通などそれらの要素も必要だろうが,商船学は船を用いて荷物を運ぶために必要なさまざまな分野と関連した総合的学問である. 具体的には船を造り,動かし,貨物を積んで目的地まで航海するための技術が中心で,それには理工系の要素を多く含む.

今から数百年も前の大航海時代,航海学は当時の最先端テクノロジーの結集であっただろう. 例えば,星の位置と正確な時計から自船の位置を測るためには,天文学に関する知識と機械工学にもとづいた工業製品開発の技術が不可欠だった. 現代におきかえてみると,まず思いつく先端技術といえば,情報通信技術すなわち"IT".

最初に「現在」と書いたが,私は,大学院までに電気工学科,電子情報学科,通信工学科を卒業・修了し,情報システム学研究科,システム工学科で教官を務めてきた. 「情報システムの設計と運用」が私の主専門であり,幸運にも最近脚光をあびているITの基盤となる技術を身につけているつもりである. 船舶や航海については素人だった私が商船大学で行っている現在の研究テーマは,GPS(Global Positioning System=人工衛星を使った高精度の測位システム)で船の位置を測り,TCP/IPなど一般的なインターネット技術を組み合わせて船内にLANを構築し,航海情報を収集・転送・処理して,最終的には舵(かじ)やエンジン等を自動で制御し,船を安全かつ効率的に動かすというシステムの開発を目標としている.

大航海時代に負けないくらいの先端技術で「商船学」を新たな方向へ進歩させるため,次の世代の商船大生にはITに限らず現代の最先端テクノロジーを身につけるよう,大いに期待している.


平成14(2002)年4月30日発行,旺文社.